銀行・証券・保険:高瀬 勇/欧州三井住友海上

2021年業界見通し 第8分科会 銀行・証券・保険

謹んで新春のお慶びを申し上げます。

昨年は新型ウイルスに始まり、新型ウイルスに終わった一年でした。

日本では予定されていたオリンピックが延期となり、その他世界中の様々なイベント等が延期ないしは中止となり、人々の行動も世界的に制限され、経済を構成する主要素であるヒト・モノ・カネの流通が顕著に低下した、近年稀に見る特殊な一年となりました。

損害保険業界においても、興行中止や事業中断による利益の減少を補償する保険金のお支払いが増加する一方で、人々の移動が制限されることで自動車の運転頻度減少よる自動車事故減少に伴い自動車保険金のお支払いが減少するなど、過去経験のないような一年となりました。

そして2021年も引き続きこのやっかいなウイルスとの闘いが続くことが予想されています。

このような状況下で損害保険業が担える役割を考えるに際し、改めて保険業法第一条を読み直しますと、「保険業の公共性にかんがみ」、「国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資する」とあり、保険業の社会的な意義は、人々の安定的な生活を支え、経済の健全な発展に寄与することと理解でき、保険金のお支払いにより金銭面で損害の補償を実施することが期待されますが、今般の新型ウイルスのように世界的に広域かつ経済全体を低下させてしまうような未曾有の事象は、個々の保険会社のレベルでは太刀打ちのできないほど大きなリスクであり、保険業界をあげての取り組みが不可欠と考えます。

例えば、フランスでは昨年の夏から官民連携のひとつのワーキンググループを立ち上げ、感染症リスクを補償する強制保険制度の導入の検討が開始されました。既にフランスでは、自然災害やテロといった大規模となる可能性のあるリスクを補償するための強制保険制度が整備されており、既存の制度を活用しながら感染症リスクを保険で補償する新たな仕組みをスムーズに構築しようとしています。しかしながら、新たなリスクを強制的に補償する保険制度を構築することは、国民や企業の負担増につながることになるため、現時点での制度開始については懐疑的な声も上がっており、その開始時期については議論が待たれるところです。

またこのような大規模なリスクは、保険市場のみでのリスクを引き受けることが困難であることも想定され、そのようなリスクを資本市場で引き受けてもらう証券化商品の更なる活用も有効と思われます。

この数年の損害保険業界は、多発する自然災害やテクノロジーの進歩に伴う新たなリスク(自動車の自動運転やサイバーテロなど)への対応が求められてきましたが、それに併せ2021年は、人類が直面する危機とも言えるこの感染症リスクついて損害保険業界としてどのような役割を果たせるのか、業界として一体となった取り組みや創意工夫が求められる一年になるものと推察いたします。

また、従来の損害保険では「事故発生による経済的損失の補填」が基本的なビジネスモデルでしたが、デジタルトランスフォーメーション(DX)を保険会社として活用し、例えば、自社が有する事故データと多様なデータを掛け合わせることで、事故防止や損害の軽減、事故発生後の事業継続に対するサービスの提供が可能になるなど、従来よりも期待される役割が幅広くなることも予想され、それら社会のニーズに応えることで損害保険業がさらに進化するものと考えています。2021年はこのようにDXを活用する新たな動きも活発化するものと思われます。

最後となりますが、一日も早く感染症拡大が収束し、従来の日常が戻ることを心からお祈りいたします。


 

欧州三井住友海上

高瀬 勇

 

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