「業界こぼれ話」と言うことで仰せつかったが、欧州のそして日本の鉄道を取り巻く情勢とでも言うものを掲げさせていただく。
一昨年1月1日から単一通貨(ユーロ)が導入され欧州経済の活性化が急速に図られつつあるが、それを支える輸送システムは多くの問題を抱えている。その解 決策を打ち出しているのが、2001年9月に欧州委員会から出された「EU運輸白書」である。EU域内での輸送関連支出は域内のGDPの10%に相当する 1兆ユーロに達し100万人をも雇用している。輸送手段として圧倒的優位を誇るのが道路で、貨物輸送では44%を占め鉄道の8%に大きく水をあけ(海運 41%、内陸海運4%)、また旅客輸送では79%を占める(鉄道6%、航空5%)。しかし欧州の道路はすでに飽和状態で、また2000年度の域内での交通 事故死亡者は4万1000人(けが人は170万人)の多数に上っている。さらに道路輸送による大気汚染・騒音公害なども問題となっている。これらのことか ら、この白書では高速道路の原則有料化や軽油を対象とした課税額のアップ等により得た財源での「欧州幹線鉄道」の建設や「高速海運路」の整備などを提案し ている。
この推進のためにトランス・ヨーロピアン・ネットワーク計画があるが、ここで14の優先プロジェクトを定めている。その総工事費は1000億ユーロを超えるものとなっており、そのうち10件が鉄道にかかわるものである。
こう書いてくると鉄道にとっては万々歳と思われる状況ではあるが、鉄道システムは乗り越えなければならない課題を多く抱えている。発足からの鉄道発達の歴 史は各国がまちまちにというより、陸続きの他国から攻め入られないために別々の規格の鉄道を作ってきたと言う歴史がある。例えば他国と線路幅が違う線路が 有ったり(スペイン)、列車同士の連結の仕方が違う例から、電力の受電方式(電圧・周波数)、さらには信号システムに至るまで何から何までと言っても良い ぐらい千差万別である。このため、現在EUでは域内の鉄道システムの統一規格化を進めており、高速線のものについては昨年作られ、在来線についてはこの春 を目途に進められている。国際基準を定める機関が欧州にあることもあり、これらの基準がそのまま国際基準へ組み込まれる可能性が高い。現在台湾で新幹線導 入へ向けた工事が進行中であるが、ここでも日本のJISと国際基準と目されているUIC(国際鉄道連合)基準との違いが多くの場面でぶつかっている。北 京・上海間の高速化計画でフランスか日本かと議論されているが、単にどちらの方式がと言うだけでなく、将来へ向けた標準化議論も影に隠されていることにも 注目していただきたい。世界の鉄道産業界のシェアーの約60%を欧州の産業界が担っているが、更なるシェアー拡大を標準化という武器で行おうとしている。 ちなみに日本の鉄道産業界の占めるシェアーはわずか10%程度である。最後になるが、日本鉄道産業界の更なる奮起を願いたい。