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パンのお話/山崎製パン(株)

 

人類が農耕生活を始められたのは小麦があって、パンを作ることができたからだと言うくらい、有史以前からパンは人間と共にありました。小麦粉と水と塩、そ れにイーストがあり、後は火〔釜〕さえあればできます。イーストだけが何となく親しみが無いでしょうが、何 イーストなんていうものはフランスのパスツールがわずか140年前に教えてくれたものです。そんなもの無くたって昔からパンは作られていました。昔からパ ン屋は生地を少し取っておいて翌日用に混ぜ込めば立派に発酵することを知っていました。今でも美味しいと評判のパンはたいていこの方法です。でもまあ、時 間がかかりますから、ご自分で作るなら、近くのパン屋に行ってイーストを分けてくれと言えば、たいていすぐ呉れます。もらえなかったら日頃の心がけが悪い んでしょうね。

 

自分で作ることなどしなくともフランスはパンがおいしいという事になっていて、事実そのとおりですが、どこと比較してと問われるとちょっと返答が慎重に なってしまいます。日本とだと食パンやアンパンとの比較になってしまうので、立場上不可能と申し上げておきます。アンパンとクロワッサンのどちらが美味し いかというのはワインとシャンパンの比較とはちがいます。同じ欧州というならイギリスに来てもらいましょう。林望先生に解説をお願いすれば不当じゃと言う ことになりますが、まあ、一般的に美味しい食べ物が少ない国とされているのはご存知のとおり。

 

パンについて言えるとすればほとんどをスーパーマーケットが作っていますので、個人店が9割もあるフランスと比べると品種品質よりは大きさ、価格に比重が 偏っています。イギリスの名誉のために言っておきますが、昔はそうではなかった。パン会社に入社して、工場で働いていたとき、最初に製造現場の偉い人たち に本当においしいパンとはどんなパンですかと訊ねました。皆、同じようにそりゃイギリスパンだ。フランスパンは早く固くなっちまって、うちには向かない。 昔からの一流ホテルに行ってみろ。当代随一の職人さんたちがそれはうまいイギリスパンを作っている。ああいうパンを作ればいいんだ。ふうんと納得して、そ れで帝国ホテルやニューグランドホテルのイギリスパンを買ったことがあります。山型に盛り上がった食パンで、確かに値段もそれなりにしたけれど美味しかっ た。私の同年輩の関係者では いまでもそのように思っている人も多いはずです。

 

ロンドンに店を出すことになり〔残念ながら昨年閉店しましたが〕まずは市場調査とばかり、ロンドンに乗り込みイギリスパンを探しました。それはそうですよ ね。市場にあるイギリスパンより美味しいイギリスパンをつくれば、店は流行ると考えるはずです。ところがこれが無い。調査の第一報がロンドンにイギリスパ ン無し、同時に書いたのがロンドンにパン屋ほとんど無し。目標としたイギリスパンも無ければ、1千万人の人口の一大都市にパン屋が無い。あわてたと言うの が本音です。パン屋のほうは大型スーパーが店内で工場に匹敵するような設備で作っていましたので了解しました。但しイギリスパンのほうはわからない。ま あ、推定するに、イギリスはかってカナダを植民地としていた。カナダは良質の小麦の産地ですから(現在日本で食パン用に使われるのはカナダ産の小麦が多 い)安くて良質の小麦をそれこそふんだんに使用していた。その当時はすばらしい山型食パン作れたはずです。そしてその当時イギリスの客船のコックなどが日 本にその技術を伝えたのでしょう。ところが第二次大戦中、イギリスは食料自給の政策をとり、国内産の小麦使用を奨励した。イギリスのえらいところはそれを 今でも継続しているところです。(同じことがイングリッシュブレックファストにでてくるソーセージについてもいえます)作ろうとおもえば作れる、しかし作 らない。いいですね、この精神。

 

長い間の歴史、国民性、食生活から生まれた、その土地の風土にあったパンが各国、各地方にいくと見つけられます。それを味わえるチャンスがあれば喜こんでいきますが、だからと言って、そこで味の比較などすることはナンセンスです。

 

日本のパンのことを見れば、カナダ、アメリカ産の小麦粉を使っています。日本の消費者に好まれる食感は日本独自のものです。水分が多いモッチリした、炊き たての米に共通したところのある食感といえばお分かりでしょうか。これが日本の風土に合ったパンです。ところがこうした食感は外国産の小麦でなければ製造 不可能とされてきました。ハンディとも言えます。

 

しかし、長生きするものですね。技術の進歩はたいしたもので、日本でも 
うどん等の用途に限られていた内麦も食パンに使えることができ、味も変わ
らない食パンができるようになっています。

 

世界的に見ればイギリスや各国の自国産の小麦(内麦と呼びますが)への愛着、食糧自給の問題などから、単に輸入だけに頼らない国のほうが多いことはお分かりでしょう。日本もこの道を行くでしょう。

 

フランスはどうするか。これは皆さんのほうが知っているはずです。小麦の輸出ができる欧州唯一の国で、行列ができるパン屋で、出来立てのパンを買っているのですから。

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